027/Repair・・・Kai Kristiansen #42の修理編
「家具修理」も奥が深く、壊れ方や素材、スタイル(モダンなのかクラッシックなのか等)などで変わってきて、同じものでも年代によって造りが違うので、その都度、様子を見ながら修理をしていかないといけないので、日々勉強です・・・特に私は素人で始め、誰にも教わらず、独学でやってきたので、自分の中での「正解」しか分かりませんが、北欧の家具に関しては、それぞれの家具に合った「仕上がり」にはちょっとした拘りと「Fusion Interiors」クオリティーにはプライドがあります。なので、当店では、ぐらつきや構造上のダメージに関しては、何年経っていようが、基本的には無料で修理しています・・・送料だけは頂いてますが・・・昨今、インターネットの普及で、気軽に物を買えるようになりましたが、「売りっぱなし」のお店も多いのも現実。特にオークションや某サイトで購入したけど、汚かったり、壊れていたりと・・・修理依頼も非常に多いです・・・最近、持ち込みで一番多いのがKai Kristiansenの名作「No.42」です。
Kai Kristiansen “Dining Chair No.42” Teak Wood
この椅子、北欧らしいデザインで、美しく、アームがついて、背もたれも稼働するので、座り心地も良いのですが、しっかりとした修理・補強が必要な椅子です。しかも、年代によって、背もたれや座面の素材・構造が微妙に違っているので、状態を見分けるのは大変です・・・特に背もたれ。稼働する分、壊れやすいです。この背もたれ、形成合板で、結構な角度で曲げられているのですが、古いものは心材が「紙」でできていますので、弱いです。それ以降は普通の3層合板(両面0.5㎜の突板共張りですが)で、一見、壊れていなそうでも、布を剥がして、合板を確認してみると、大抵、剥がれています。言っても、40年ほど経過しているので、接着剤は劣化しているはずです。
古い布を剥がした背もたれと座面
タッカー(ホッチキスのような・・)がこれでもかと言うほど打たれてます
1脚やると手のひらは真っ赤・・・水ぶくれに・・・
今回の物は「初期型」で背もたれの金属ハーツ部分が割れていました
バキバキに割れてます・・・
合板の真ん中の層は段ボールのような圧縮された紙でできてます
まず、このダメージ部分を作り直して修理します。あまりにもひどい場合は作り直しますが・・・この程度のカーブなら、板を張り合わせるときに曲げて接着すれば、簡単に作ることができます・・・ダメージ部分を切り取って、新しく板を張り合わせます。
ダメージ部分を切り取り・・・
合板の外一枚を残して・・・真ん中の層は、少しマイナスに切り込み・・・
3㎜の板を2枚、曲がる様にクランプで貼り付けます・・・
Fクランプ、沢山使います・・・
接着剤が乾いたら(2~3日放置)形に合わせてカットして、ペーパーをかけて、元の形に近づけます・・・写真が無いですが・・・今回の物は大丈夫でしたが、大抵、合板が剥がれていますので、その場合は、一枚ずつ剥がして、接着し直しをします。組み直し編でも書きましたが、この時、しっかりと古い接着剤を除去しないと、くっつきません。背もたれの修理が終わったら、次は座面。
Kai Kristiansenの座面は大抵、枠組みにベルトという形状です
座面も無理な造りで、壊れやすいです・・・これも年代によるのですが、古いものは四方全てが合板なので、非常に弱いです。以降、徐々に素材が変わり、ヴィンテージのものは、左右が合板、前後が無垢になっていたりと・・・当時は、ベルトが麻でできていて、テンションがきつくなかったので、それでも大丈夫だったのですが、最近のベルトは、伸縮性が高く、その分、負荷の掛かり方が桁違いになっています。それを前後左右8本~10本使っていくので、補強しないと、「グシャッ」と壊れてしまいます・・・私は一度外して組み直す際に、四隅に杭を打って、プレスし直します。これも、布を剥がして、写真のような状態になった時に、よ~く四隅を確認しないと、気が付かないと思います。私は大丈夫でも、杭を打ち込んで、接着剤を回して、プレスします。
座面の補強が終わって、張替えをしている間に、次は本体を修理します。もちろん組み直しもします。この椅子、何故か前後の「貫き」は突板でできていま・・・コスト削減?なので、経験が浅い職人は、ペーパー掛け過ぎて突板を削り過ぎることが・・・今回、お預かりした椅子は、突板が剥がれまくっていて、すっかり地が出ていたので、新しく貼り直しました。
突板を木目に沿って切るのは意外に大変・・・
組み直しと突板部分の接着剤が乾いたら、全体をサンディング。もう一度、240番手から・・・接着剤を塗れた雑巾で拭き取ると、毛羽立ちするので、均すのに240番を使います。ジョイント部分の際をやるときは、木目に沿って丁寧にやらないと、キズが残るから、組み終わってからサンディングするのは面倒です・・・その後、320番で均して、最後は600番手で艶出しをします。この最後のサンディングで、オイルを塗った時の仕上がり感が違ってきます。
張替えが終わったら、組み立てるのですが、このKai Kristiansenのもう一つ厄介なのが、背もたれを留める部分の「木栓」です。ビスを隠す部分ですが、現行の宮崎椅子の物は「直径14㎜」で、フラットにカットして本体と面合わせしていますが、ヴィンテージの物は「直径12.7㎜」というインチサイズ(半インチ)です。しかも、ドーム型・・・なぜか、デンマークの木栓は、半インチの物が多いです・・・これを作るのが、また厄介で、数が多いと嫌になります・・・
木栓を作るドリル「木栓ドリルソービット」
インチサイズなので、日本には無いです・・・アメリカから取り寄せました
材料のチーク材は高く、入手も難しくなってきています
材料は、ダメになった家具からパーツ取りしておいたチークを利用します。そうするとナチュラルなオイルでも、色が合わせ易いです。まだ、チークは扱いやすいのですが・・・オークは古材じゃないと色が合わないのと、高速で回転するドリルなので、焦げてしまうので、オークのような色の薄い木材は厄介です。もっと厄介なのが、ローズウッドのような固い木。1個作るだけで、焦げ付き、ドリルが真っ黒に・・・しかも粘りが強いので、なかなか取れないです・・・私は、そばにシンナーとスチールウールを置いて、1回ごとに綺麗にしているので、時間が掛かります。あとは煙。ロースウッドの場合は、物凄い煙で、目が痛い・・・4脚分となると、予備も含めて10個は作るので大変です・・・そこから形成していくので・・・一日作業になります。
あのドリルで2㎝ほどの丸棒ができます
サンディングしてドーム型に・・・
2㎝のものを指先で持って、サンディングしていくのですが、2㎜のドームを目検討で作るには、慣れが必要です。ぼってりし過ぎても、フラットになり過ぎてもカッコ悪い・・・微妙な作業をしていくのですが、なんせ2㎝・・・ちょっとサンディングマシーンに指が触れるだけで、指紋が・・・サンディングが終わったら、トップから底までの高さを1~12㎜にカットしていきます。物によっては7㎜程までカットします。
別の椅子の木栓・・・
完成!
テキスタイルは、デンマークの老舗「Kjellerup Vaeveri」を使用
木栓はきっちりサイズなのでボンドは使いません
デンマークのチークは私が大好きな「タイ産」
赤味があり、木目も美しいです!
Kai Kristiansenの42番は、本当に修理依頼が多く、この半年で、30脚は修理してます。ご近所の方が多いのですが、当時、銀座のデパートで購入したという方がほとんど。ただ、壊れて使えなくなって捨てようかと・・・というお話しばかりです。非常に綺麗なシルエットの椅子で、きちんと修理すれば、長く使える椅子でもあります。もし、壊れてしまったら、是非、ご相談ください!どこかで購入する際も、しっかりと見極めて、お店の方に、壊れた場合の対処法なども聞くことが大事です。
良い家具を見つける手助けになれば・・・という思いです。